U-MAIL(ウンコ通信) 2006/05/29 


《CLASS IN AMERICA》

「アメリカの社会的階級」第2回:05/05/17

2)《IN AMERICA, LIVING BETTER AND LIVING LONGER》

「医療と階級のロコツなカンケイ」 ジャニー・スコット

(紐育・発)

★ジャン・ミールの心臓発作は、去年5月、マンハッタンの歩道で起こった。2人の仲間と昼飯に何百ドルかのスシを食べて事務所に戻る途中だった。胸ヤケがして、ヤタラ汗が出た。そして建築家ミールは、冷汗ビッショリ掻いたままコンクリートの植込の中に倒れ込んだのや。

★ウィル・ウィルソンの心臓発作は、ブルックリンのアパートの寝室で起こった。フィアンセにヴァイキング式の夕食をオゴった後だった。エジソン公益電気事業体のコーディネーターとして働くウィルソンは、ちょっと食い過ぎたかなという感じだった。ベッドに倒れ込んだ途端に、灼けるような痛みが走った。胸の奥に熱いアイロン突っ込まれたようだった。

★リンザック・ゴラの場合、最初の兆候は、ブルックリン・クイーンズの高速道路の下の賃貸部屋で起きた。6月だった。ポーランド生まれのハウスキーパー、ゴラはブリッジゲームをやっていた。突然汗をかき、息苦しくなって吐き気を感じた。夫に、オカネが掛かるから救急車は呼ばないで、と言い、家庭治療を試みた。塩水を飲み、血圧降下剤を2錠、そしてウォトカを1杯。


建築家、労務者、メイド。心臓発作は平等に起きた。その瞬間、3人のニューヨーカーは共通の恐怖に直面した。しかしその後の何ケ月、3人の体験はそれぞれ異なった。社会的階級(収入、学歴、職業、財産のイロイロな組合せとしての)が3人の回復への闘いに大きく作用した。

彼らの心臓発作に、階級差が異なる状況を与えた。3人が受けた救急治療、帰るべき家庭、そして彼等の職業。自分の病気への理解、家族からのサポート、医者との関係、などがそれぞれの状況を形成した。

アメリカでは、属する階級のチカラが、健康と寿命に大きく関わってくる。

学歴と収入が高いほど、心臓発作や糖尿病や様々なガンに罹ったり死んだりする率は低くなる。上層中流階級は中流階級より健康で長生きするし、中流階級は下層階級より長生きする。

その裂け目は広がる一方なのだ。

新薬の効果は、モッパラ、高学歴、高収入、有利な職業、有効なコネクションを持つ人々に与えられる。

心臓発作は階級と健康の相関カンケイを覗く「窓」とも言える。喫煙、食生活、運動不足、肥満、高血圧、高コレステロール、ストレス、といった危険因子は、学歴の低い、収入の低い階級の人々に多く見られる。心肺蘇生手当てや集中治療室の使用、生活習慣の是正などについても同じような差がある。

建築家ミールの場合、冠状動脈破裂で、63才の彼の血流が切れた時に、一緒に居た仲間の知識が、先ず有利に働いた。タクシーを呼んでくれというミールを無視して救急車を呼んだのだ。

さらに、彼がマンハッタンのド真ん中で倒れたために、最新の救急心臓治療の免許を備えた大きな医療センターが幾つも近くに有った。救急車の中で、ミールはどの病院を撰ぶか訊かれた。彼はNY大学付属のティッシュ病院を指名した。市立のベルビュー病院ではなく。

数分後、彼は心臓カテーテル治療室の手術台の上に居た。ゴールドスタンダードと呼ばれる処置が施された。

担当のジェームズ・スレーター医師は、2万5000例のカテーテル手術経験を持つ心臓専門医だった。発作から2時間足らずの内に、動脈は開通し、ステントが挿入された。

ダメージは最小で済み、ミールは2日で退院した。

53才の労務コーディネーター、ウィルソンの場合は、そうは行かなかった。彼は一瞬、食当たりだと想像した、前に心臓発作の経験があったのに。

フィアンセは救急車を呼んだ。救急隊員は2ツの病院を推薦したが、両方とも心臓治療の免許を備えていなかった。

ウィルソンは、ウッドハル病院を避け、市立のブルックリン医療センターを選んだ。それはブルックリンの最貧地域に在った。其処で彼は動脈を塞ぐ血栓を溶かすクスリを処方された。最初は効いたのだが、血栓はブリ返した。そこでウィルソンはマンハッタンの長老教会病院に転送され、心臓手術と、ステントの挿入を受けた。

後から、ウィルソンの心臓発作が、もっと他の場所で起こった方が良かったのか?と聞かれて担当医師は答えた。「そう思う。最初から心臓手術の出来る病院に運ばれていたら良かった」

ウィルソンは5日間経って退院した。ミールと同様、高額のクスリを処方され、食事の内容を変え、規則的に運動するようにとの指導を受けた。

2000年に最初の心臓発作を起こした後、ウィルソンは禁煙した。しかしチョット良くなったと感じると、処方されたクスリの服用を止め、肉類と揚げ物の食事に戻り、運動もナマケてしまった。今後は必ずマジメにやる、と彼は誓った。

ゴラの体験は一番不安に満ちていた。彼女は夫が救急車を呼ぶことに躊躇を示した。直ぐに良くなると思いたかったのだ。救急車が到着した時、彼女は搬送を拒んだ。

彼女も病院の選択を求められ、ウィルソンが避けたウッドハル病院に運ばれた。到着した時、病院は混雑していた。看護婦は状態安定と判断して「優先患者」の枠に入れた、「緊急」ではなく。2時間後、内科助手と付添医師が再診して、ゴラの訴える胸の痛みと短い呼吸と速い脈拍を認め、数時間のテストの後、心臓発作と確認された。

ゴラは血栓を防ぎ、血圧を下げるクスリを処方され、発作は治まった。翌日ゴラは、血管検査のためベルヴュー病院に転送された。ミールが拒否した病院だ。しかし59才のゴラは発熱して居り、検査はキャンセルされた。2週間、ベルヴュー病院で過ごし、結局検査は行なわれないまま、ゴラは帰宅した。

階級で定義すれば、建築家の息子として生まれたミールは当然、上層中流階級に属する。学校を出ると父親の会社に勤め、建築家としてだけでなく、不動産開発事業の法律専門家としての位置を築いた。

ミールは、ブルックリンの一等地に2万1000ドルの家を購入し、15年後、それを、28万5000ドルで売却、そのカネをモトに、200万ドル以上の今の家を建てた。
その他、ロング・アイランドにも3棟の集合住宅を所有して居る。

担当の心臓専門医の忠告に従ってミールは、心臓患者の平均余命を20%延ばすと言われる3ケ月の検査プログラムに登録申し込みした。ミールは保険で、その費用を支払った。ただ、ちょっと不愉快なことが起こった。7月末に、仕事のパートナーから引退を迫られたのだ。

ウィル・ウィルソンは、典型的なニューヨーク中流階級。両親は南部の自立農業者だったが、北部へ移住して機械修理工と看護婦になった。

彼自身はブルックリンで育ち、34年間、エジソン公益事業体で働いて来た。7万3000ドルの年収と5週間の有給休暇、健康年金保険、45万ドル相当の家を所有し、55才でノースカロライナに引退するつもりだ。建築家を志したこともあったが、学資が無く、今の公益事業の職に就いたのだ。

何年かは高圧電線の組み継ぎ作業に従事した。しかし怪我でその仕事を辞めた。ミールが受けた高額外科手術は受けられず、医者は、痛みをガマンして暮すことを奨めた。それでウィルソンは工場技術者をやった後、運送コーデイネーターになって、燃料供給の監督を務めた。

ウィルソンの健康は悪くはなかったが、カンペキと言うわけではなかった。サケもタバコも止めたが、コレステロールと血圧と糖尿値が高かった。最初の心臓発作の原因を、離婚のナンヤカヤから習慣化した喫煙、食事、ストレスのセイだと考えた。今回の担当医に出会うまでに、既にこの3ツが心臓にダメージを与えていたのだと。

「気を付けて下さい」と担当医は言った。「治療薬服用をキチンと守ること。食事は肉、油を避け穀物中心に。特に油は禁物」

さらに、歩行運動を奨められた。近所にちょっとした空き地があったので、フィアンセのグリーンと一緒にそこまで先ずクルマで行ってから散歩した。10月半ばに、ミールと同じ心臓リハビリを受けたが、あまり効果なかった。

バス運転手の娘であるゴラは、1990年代初めにクラコウからニューヨークにやって来た、故郷に成人した息子を残して。老人住宅で、ベッドメイクやトイレ掃除など、ハウスキーパーとして働いている。年収は2万1000ドルから2万3000ドル。組合の健康保険に入っている。

友だちが持っているブルックリンのアパートの家賃は月365ドル。助成金付きアパートを申し込んでから7年も経つが音沙汰無し。そーこーする中に、彼女はルームメイトを獲得した。ポーランド出身のアスベスト除去労働者エドワード。2003年に、10才も年下のこの男と結婚したのだ。

ゴラは30年間喫煙を続けて来た。母親の作るフライド・ポーク・チョップとスペア・リブとミート・ボールを食べて育った。さらにピザやハンバーガーやフレンチフライが大好物。ファストフードは美味しいし安いし。

「アタシは大食いなの」ベルヴュー病院のベッドの上で朗らかに言う。「油っこいものとファストフードとタバコが好き」

1回目の再診でベルヴュー病院に行った時、心臓検査を終えた担当医はユックリと質問した。まだ心臓に不快感があるか?歩くと息切れするか?

彼女は質問を遮った。「先生、アタシに何が起こったの?なぜ入院したの?心臓発作はなぜ起こったの?これを繰り返さないためには、どうしたらいいの?」

「心臓検査が役に立つかどうかは分かりません」と医者は言った。しかし、タバコは止め、処方されたクスリをチャンと服用し、歩くこと。ひと月経ったらまた来て下さい、と。
彼女は職場に戻りたいと医師に言ったが、先ずストレス検査をしてからと言われた。だのに受け付けで示された次の診察予定日は7週間後だった。

ゴラはベルヴュー病院で、無料の禁煙プログラムを試みた。カウンセラーがニコチン膏薬とアドヴァイスを呉れるのだ。何回かの試みで、彼女のタバコ中毒は弱まった。でも体重が増えた。それを直すために、また喫煙習慣に戻りそうだ。


★2月までには、ミールの心臓発作は目立って快方に向かった。体重は15キロも減り、1週に3回運動訓練し、地下鉄の階段は2段飛びで昇る。自分の予定通りの時期に引退し在宅で時給225ドルの仕事をコナシて居る。血圧もコレステロールも低い。

★ウィルソンの心臓発作はブリ返した。心臓機能は低下しているが、クスリの服用はマジメに続けて居り、心臓リハビリを終えて、今はリタイアを待ち望んで居る。

★ゴラの生活と健康状態はシッチャカメッチャカだ。夫は肺炎を繰り返して失業中。彼女の体重は200ポンドに達して居る。血圧もコレステロールもヒドク高い。糖尿値もギリギリの高さ。「アンタはフルタイムの患者になっちゃてるわ。困ったもんね」と担当医はサジを投げたカタチ。


ウム。かなり冗漫だが、特に食い物など、ディテ−ルがイノチの報告記事なのでほとんど全文ご紹介してしまった。ワメの座右には医学英語辞典が無いので、心臓医療に関しての術語訳はアバウト。悪しからず。

よーするに、地獄の沙汰もカネ次第。でも、カネモチとビンボー人で、医療に差が付くってのは、日本も同じ。ニホン医師会とクスリ屋のユチャク、東大系と慶応系のセメギ合いの中で、セカンド・オピニオンを求めたりするのは、カネのチカラ無しにはなかなか。

日本でも、今や、社会的階級の分別はゴミ分別同様ヤヤコシ。勝ち組・負け組、ファンド屋、フリーター、ニート・・・便宜上、色々な仕分け名称があるが、実体は薮ン中。まだアメリカほどでは無いにしても、年金同様、この国の医療保険の未来は真っ暗オバケや。


BACK